ゲームは究極の科学なり

フルタイムの教員モードに入っている企画系ゲーム屋があれこれ綴ります

クレジットカードクロニクル(5)

 ビジネスのイノベーションを理解する上で最重要なキーワードは「リスク」だろう。リスクをめぐる創意工夫が、いろいろなビジネスモデルを作ってきた。リスクの対向語は「リターン」。複雑なクレジットのシステムにしても、リスクとリターンをめぐるアラベスクのようなものだ。

 現金払いだけなら話は単純だ。でも、それを貫く限り、小売店は手持ちのない顧客を取り込むことができない。これを「顧客を取り逃がす損失」と捉えることで、リスク概念の対象となる。そしてそれをヘッジする手段として「当店はクレジットが使えますよ」が有効になる。そのサービスを提供するのがクレジットカード会社(イシュアー)。イシュアーはリスクをとる代償として、売上の数%というリターンを得る。ただイシュアーにしても、カードを持ってくれるユーザーがちゃんといないと、どこも契約してくれない。だからテレビCMを打ったり、スポーツのスポンサーをやったりと、知名度を高めるための営業努力をする。とはいえ自社単体では心もとない。そこで国際ブランドを持つブランドフォルダーと契約する。「“使えないカード”と思われてしまうリスク」を、国際ブランドのブランド力でヘッジするわけだ。

 このリスク/リターン関係、身近な部分に限定すると、クレジットとローンの違いが典型的だ。どちらも「代金の立て替え払い」で、分割で買った場合、ユーザー的にはほとんど同じように機能するのだけど、とても大きな違いがある。リスク&リターンの流れだ。代金債務を保証する向きが、全く逆になるのだ。

 クレジットの場合、たとえユーザーが口座引き落とし不能になっても、小売店は代金を得ることができる。クレジット会社が引き落とし不能のリスクをとっているのだ。一方ローンの場合、信販会社から立て替え払いはしてもらえるけど、その債務の保証をするのは小売店の側だ。引き落とせなかった場合、代金は入ってこない。だから、売買契約一件ごとに個別に審査する。そして、引き落とし不能リスクへの備えとして、売った品物に対して、所有権を残しておく。これは担保で、いざ払いきれなかった場合、商品を回収して少しでもたしにしようってことだ。


 ゲーム屋もまたイノベーションをし続けていかなければならない業態といえる。そして、リスクを過剰に恐れる者は、リターンも失う。

 ファミコン時代の任天堂は、とにかくリスクを嫌がった。パッケージが売れ残るとかROMのような材料が余ったり価格変動の煽りを受けるとか、ディストリビューターをしていれば当然に発生するようなリスクを含め、自分たちが負う可能性のあるリスクを、すべてソフト屋などに回した。具体的には、①単価が高価い、②最低ロットがでかい、③締め切りが早い、など。その結果、体力的に余裕のある大手しか商品を出せなくなり、寡占化の進行とさらなる企業規模の拡大がスパイラルで進んでいった。彼らはやがてCESAを結成して任天堂支配から離脱、結果任天堂はゲーム産業自体ののヘゲモニーを奪われることになった。

 今は、そのCESAですら、イノベーションに立ち遅れている。任天堂は、そのさらに後ろだ。ファミコン時代の「勝利の方程式」を捨てるというリスクをとることができず、ソーシャルゲームやネットゲームに対して、全く対応することができなかったのだ。