ゲームは究極の科学なり

フルタイムの教員モードに入っている企画系ゲーム屋があれこれ綴ります

電子ブックの夜明け

特殊能力でもオカルトでもなく(終)

Kindleといえば、新型Kindle Fireの発売が発表されている。この速読にまつわるシリーズが予想以上に長くなってしまった結果、気づいたら「まもなく発売」になってしまっていた。 初期ロットにはあまり飛びつかないほうだけど、今回は違う。わざわざAmazonプ…

特殊能力でもオカルトでもなく(8)

でも、本の持つ優位性はそれだけだろうか。 ひとつには、それが有体物であるということ。知識は「本」という物理形態をとることで、実体化する。知識は情報で、それ自体所有できるものではない。でも本は所有の対象だ。フェティシズムの対象にもなり、地上に…

特殊能力でもオカルトでもなく(7)

さて、年代的に上の方の人間だと、「知識の基本=本」ということについて疑問はない。でも、学生たちの年代に対してこれを言うと、たちまち言い返されてしまう。なので、事前にその言い返しに言い返しておこう。 それは、インターネットは本の代用品にはなら…

特殊能力でもオカルトでもなく(6)

というわけで、速読から始まった今回の話題、いつの間にか読書論に近いものになっていた。それならそれで、総括してしまおう。 まず「読書」という行為において、こんな価値観がある。 重要なのは「噛みしめるようにして読む」ことである。 なぜなら、著者は…

特殊能力でもオカルトでもなく(5)

読書には、戦いとしての側面がある。当事者の一方は読者。そして他方は言うまでもなく、著者だ。別の言い方をすれば「批判的な読書」というやつで、知的な営みとして本を読む上では、欠かせない要素だと言っていいだろう。 まあ戦いと言っても、砂浜のビーチ…

特殊能力でもオカルトでもなく(4)

速読に過剰な期待を抱く人には、実は知っておかないといけない事実がある。「読む」と「内容を記憶する」は別問題ということだ。 読み終えた時点で得られているのは何か。実は「読み終わったという経験」だけだ。これはどんな読書でもそうで、速読だけの事情…

特殊能力でもオカルトでもなく(3)

思い出してみると、大学で最初に入ったゼミの先生が、こんなことを言っていた。 「まず序文を読んで、それから見出しをじっくりと見ること。 それが正しい専門書の読み方だよ」 佐藤式超速読術は、考えてみるとこの「見出しだけを読む」と同類のやり方だった…

特殊能力でもオカルトでもなく(2)

というわけで、今回のシリーズは速読の話だ。イメージ的にはどうにも「能力開発」系の怪しさを伴っていたんだけど、できるようになってみれば、特殊能力でもなければオカルトでもなかった。 今回習得したのは、佐藤優さんが『読書の技法』で書いているやり方…

特殊能力でもオカルトでもなく(1)

本さえ読んでいれば世の中がわかるなんて思ってるバカは、もう今の時代いないだろう。でも、本すら読んでいなければもっとだめって真実に気づいてないタワケは、けっこういるような気がする。 もちろん「世の中」というのはいろいろな側面の寄せ集めでもあっ…

本棚を待ちわびて(11)

えらく長い話になってしまった。ほんとうは、収集つかなくなっている自分の部屋へのぼやきに過ぎなかったんだけど、ついでにあれこれと書いてしまった。ただ、最初からここまで広げる気がなかったのかというと、わざわざ「電子ブックの夜明け」カテゴリーで…

本棚を待ちわびて(10)

好きか嫌いかということと、何をするのかということは、切り離して考えなければならない。「するのか」は、「しなければいけないのか」でもあるし、「できるのか」でもあるけど、結局のところは「どうなるのか」が大きい。この一歩は、“私”から“公”へのシフ…

本棚を待ちわびて(9)

ぼくが問題視しているのは、実は品質面だ。ゲームにおける「アタリショック」、そのようなことを懸念している。 本は、著者だけで出すことはできない。発行人(社長)と編集人(編集長)がいて、両方がOKを出さないと出版されることはない。実際に著者が最初…

本棚を待ちわびて(8)

電子書籍については、もう何年も前から自分自身のテーマとして考えてきている。実際に書いてみたり、形式を考え試作してみたり、また一消費者として積極的に購入もしてきた。だから、浅はかな論説がぶたれているのをみると、哀れに思う。この人たち、たぶん…

本棚を待ちわびて(7)

ここまでの論考は、暗黙の内にノンフィクション系の本を前提にしていた。ただ、情報量の問題については、小説の類であっても、例外ではない。 例えば一度図書館で読んでしまった本は、なかなか買う気が起きない。未知の本ほどの情報量がないからだ。とはいえ…

本棚を待ちわびて(6)

紙の本は、そこに立ててあるだけでも、相応の情報量を持っている。本棚に本を並べておきたいのも、半分はこれだ。背表紙を眺めていると、それを読んだときの記憶がよみがえってくる(先述の通り、全てとはいかないけどね)。そういうものを引き起こすだけの…

本棚を待ちわびて(5)

紙の本も電子書籍も、価値の中心にあるのが情報だという点では共通だ。ただ、この「情報」という言葉、案外正しく使われていないことが多い。単なるデータのことをそういうのだと思っている人が多いのだ。だから、ブルーレイを「CD-ROMの数十倍の情報量を持…

本棚を待ちわびて(4)

少し私的な話に流れてしまった。書き出しの、人はなぜ本を買うのかに戻ってみよう。 物欲の対象として本を求める、これにはどうも浅ましさがついて回る。例えば高度成長期では、文学全集と百科事典が出版社の定番商品だったわけだけど、これらが売れたのは「…

本棚を待ちわびて(3)

知的な生き方。この単語がぼくにとって蠱惑的なキーワードになったのは、いくつかの本との出会いからだ。 渡部昇一氏『知的生活の方法』を読んだのは、大学通算3年めのときだった。本そのものを知ったのは、高校2年のとき(当時の担任が話していた)だから、…

本棚を待ちわびて(2)

本読みには「買う派(本屋族)」と「借りる派(図書館族)」がある。ぼくは前者で、だからなるべく本を買うようにしている。 ただ、この“本読み”というところが、そもそもの始まりだ。世の中には、そういうものに全然関心のない人も少なくない。 「えー、な…

本棚を待ちわびて

人はなぜ本を買うんだろうか。 キーワードは知識。人は生まれながらにして知ることを欲している。本というのは、知識を得るための道具だ。だから、本は、どんな時代でも人々に求められる。 でも、ひとつ注意する点がある。本は、「マテリアル化された知識」…

Kindleの話(4)

Kindleには、商品としての魅力がもう一つある。それは、スケーラブルなことだ。 ぼくが今持っているのはペーパーホワイト。この上にまだ何種類もの端末がある。これが次のウォンツをもたらしてくれる。そしてペーパーホワイト用に買ったブックは、FireHDに移…

Kindleの話(3)

実はKindleは、初めて持った電子ブックリーダーではない。元々はソニー派だったのだ。Kindleに先立つ1年前、ソニーReaderを買った時から、ぼくの「元年」は始まっている。その時点でKindleペーパーホワイトもコボもあって、じっくり吟味した末の選択だった。…

Kindleの話(2)

ではKindleの何がそんなにすごいのか。 いい点はいろいろあるが「人生の損失」とまで言い切れるのは実はひとつ。「早く読める」からである。 親指以外の指で裏側を支えての片手持ち、これが基本スタイルだろう。文庫や新書を読む時と、基本は変わらない。違…

Kindleの話(1)

電子書籍元年という言葉は、去年には聞いた。一昨年もそうだったかもしれないし、それが最初だったというわけでもない。ぼくが最初に電子ブックリーダーを見たのは、「PC」とくればまだ「98」だった、20世紀の終わり頃。NECが出した、端末だ。テキストファイ…