クレジットカードクロニクル(6)
イノベーションの視点から言うと、ゴールドカードというものは、教科書に載せていいぐらいの典型例といえる。本来何もなかったところに価値を創造し、さらにビジネスの大きなルールを変えてしまったからだ。
国際ブランドは7つある。そのうち日本でカードを発行しているのは5つ、VISA、マスターカード、アメリカンエクスプレス(アメックス)、ダイナース、JCBだ。これらは、直接エンドユーザーによって選択される対象になる。新たにカードを作るとき、イシュアーは、ユーザーに対して複数の選択肢を提示する。そしてブランドホルダーにとっては、その中からユーザーに選ばれることが重要になってくる。
クレジット業界はサービス業だけど、その中でブランドホルダーは、(おまけ的な部分はあるものの)直接ユーザーに何かを提供するわけではないところに特徴がある。存在感それ自体が商品なのだ。要は、使えること。より多くの店でそのカードが使えることが、ユーザーにとっての最大の関心事となる。では店にとってはどうかというと、より多くのユーザーがカードを保有していることが大事。結局のところ、数が全てだ。
簡単な話、「世界で最も多くの店で使えるカード」なら、そのこと自体がユーザーと契約店を引き寄せてくれる。VISAとマスターカードはまさにその路線で、「世界最高」という過去の実績が、放っておいても未来の実績を創発してくれる。だけど、業界の三番手以降にとっては、事態はそんなにやさしくない。
JCBの場合「日本ではナンバーワン!」にそれを求めた。日本ではカードを発行していない銀聯やディスカバーも、それぞれの国においてJCBと同じポジションなんだろう。
ここで別の手をとったのが、アメックスだった。ブランドフォルダーに徹することができる上位二社と異なり、自らもイシュアーとしてカードを発行しなければならない。これは弱点のはずなのだけど、あえてそれに「プロパーカード」という分類を与え、提携カードよりも高いステイタスを持っているようにイメージを作ったのだ。
そしてこのビジネスモデルのとどめとして、ゴールドカードを創り出した。あえて高い会費(年間2万6千円)をとり、また厳しい審査条件(昔は、年収制限に加え、役職付きと持ち家を条件にしていた)を付けて、「持っていること自体がステイタス」という基準を演出した。
「どうせ持つならプロパーカード」
「少なくともゴールドじゃないと恥ずかしい」
こんな風潮を作りあげたわけだ。そしてこれはあざとい。VISAやマスターは、従来のビジネスモデルがしがらみになり、プロパーカードを出せないからだ。その結果、商売の規模ではナンバー3(それも2トップに決定差を付けられての)なのに、ステイタス度で一歩上にたつという離れ業を実現して見せた。まさにゲームのルールの創造といえるだろう。