ゲームは究極の科学なり

フルタイムの教員モードに入っている企画系ゲーム屋があれこれ綴ります

クレジットカードクロニクル(9)

 マイブームって言葉、うまいとこを抑えてる。ぼくたちは、ときどきわけもなく特定の何かに熱中してしまう。「わけもなく」だからブームとしか言いようがないわけで、自分一人でそうなってたって、ブームはブームなのだ。

 いつまでも続くわけじゃなく、いずれ潮が引くように冷めてしまう。だからといって「やるだけ無駄じゃん」なんて言ってる人は、人生を無駄遣いしている人だ。楽しめるときに楽しむのが吉。いずれは腹が減るからといって、食わないで済ますべきじゃない。

 で、断続的にあれこれと書いてきたけど、こういうことを続けてきたのは、あるときクレジットカードがマイブームになった結果だ。

  「クレジットカードの何が、なんですか?」

  「いえ、クレジットカードですよ」

 この辺、説明は難しい。知識と経験をため込み、洞察とうんちくをたしなむ……ってなところか。ただ、人に理解してもらいやすい何かをしてるわけじゃない。ポイントとかマイルとか集めるのに血眼になってるわけではないし、コレクターでもない。持ってる枚数は実はかなり控えめで、アクティブでない分を含めても、主婦の財布に入ってるポイントカードより、だんぜん少ないと思う。

  「それの、どこが楽しむポイントなんですか?」

 そう、ここが難しいのだ。結局、数値的に表現できることがないんだね。

 ただ、こういう説明のしにくいものには、やはり類推だろう。

 鉄道。

 鉄っちゃん、なんて別名があるとおり、彼らは大きな存在感を持っている。それでいてサブカルチャーではあるわけで、いわばビッグなマイナーだ。

 撮り鉄乗り鉄・車両鉄・データ鉄に時刻表鉄と、鉄にもさまざまあるが、そこを貫くのは研究精神だ。表面を愛でて終わりではなく、システムの奥底まで知り尽くそうとする姿勢にほかならない。日本中の学校にある鉄道サークルも、たいてい「愛好会」じゃなく「研究会」を名乗っている。

 本来鉄道なんてのは「どこからどこまで何円&何時間でいけるか」が基本で、実用的には駅に行って切符買って乗る、ただそれだけのことだ。のぞみはのぞみ、ひかりはひかり。だけど、鉄っちゃんたちは、許してくれないでしょ? 型番。製造工場。チョッパー式だとかインバーターとか、導入されている技術。それを成り立たせている技術。他国版(TGVとかICEとか)との比較。さらには歴史的経緯なんてのまで、いくらでも掘り下げていく。

 クレジットカードだってそうなのだ。単に使うだけなら、カード作って口座にきっちりお金入れて、それだけの話だ。だけど、そこに大きな存在感を持って存在する以上、鉄っちゃん的な探求の対象になりえないはずがない。鉄道が工学的技術の結晶なら、クレジットカードだって社会科学的技術の結晶だ。「お金はないけど買いたい!」という人類の夢を、巧妙な仕掛けで実現しているのだ。

 まあ、趣味の欄には書けそうにないし、鉄っちゃんのような婉曲語(乗り鉄の『旅行』や撮り鉄の『写真』)も思い当たらないから、負けてる感が強いけどね。


 長いこと書いてきたけど、今回で一区切り付けたい。よくある専門ページに対するアンチテーゼとして始め、損得抜き&率直に書いてきたけど、まとまり的にはどうも今ひとつだった。まあ、そうだから、この短期間で書けたんだけど。

 実のところ、このマイブームはとっくに終わっている。前にも書いたとおり、ぼくにとってはもう実用品としての側面のほうが大きくなっているのだ。それでも気が向いたら、またぷらっと続きを書いてみよう。