ゲームは究極の科学なり

フルタイムの教員モードに入っている企画系ゲーム屋があれこれ綴ります

危ない夢日記(2)

 夢日記を始めたきっかけはもうひとつあった。夏目漱石『夢十夜』の影響だ。

 この作品、「こんな夢を見た」という書き出しから始まる、10作の連作になっている。10本足しても短編程度の尺しかないから、連作掌編といったほうがいいかもしれない。物語とか世界観とかのつながりはない(キャラクターは一名共通するけど)。

 中学の国語の教科書にも、運慶が護国寺に仁王像を刻む話(これは第6夜だ)が乗っている。これを通じて読んでいたはずだけど、実際に『夢十夜』という作品全体の存在に気づいたのはずっと後だったのだ。

 作品は、幻想小説のお手本ともいえるもの。中でも嚆矢といえば、第3夜だろう。これほど怖い話もないものだと思う。ただ、ぼくの心を今いちばん掴んでいるのは、豚だ。

 第10夜。近所で評判の遊び人が死にそうな状態で担ぎ込まれる。謎の女に付いていった結果、崖から飛び込むよう要求されたのだ。思い切って飛び込まないと、豚がやってきて舐めてくる。鼻を押し付けてくる。それをステッキで叩くと、豚は悲鳴を上げて崖から落ちていく……興味をもった人は、ぜひとも読んでみてください。なぜかわからないけど、時が立つにつれ、印象が深くなっていく。豚がべとべとに濡れた鼻を動かしながら近づいてくると、真っ先に思い出したりするほどだ。

 ふと気づいたんだけど、これってソーシャルゲームにできそうだね。プレイヤーは、パナマ帽かぶった遊び人になって、画面の向こうから押し寄せてくる豚をステッキで叩く。鼻面にあたるとそのまま崖に落ちていく。原作、夏目漱石ってことで、製品化。いや、さすがにこれは遺族から訴えられるかな。