ゲームは究極の科学なり

フルタイムの教員モードに入っている企画系ゲーム屋があれこれ綴ります

バッカスの微笑がえし(4)

 酒、特に醸造酒の歴史をたどると、たいてい伝説とか神話とかに行き着く。そこにいくとカクテルは、多くの場合作者がいる。単に酔っ払いたいだけなら、そんなのわざわざ開発する必要もない。明確かつ積極的な意図によって作られた作品、ということで、ゲームデザイナーとしては、これを「デザイン」という視点から考えてみたくなる。

 デザインには、美と機能という、2つの側面がある。そこでまず機能から考えてみよう。

 まず、単に「新しい味を求める」ということ。前回も取り上げたマティーニ、これはジンとベルモットを3:1くらいでシェイクするもので、酒としては蒸留酒そのものとそんなに変わらない程度にキツい。でも、他では代用できない独自の味わいを持っている。また、ジンとクレムドカカオ(カカオベースのリキュール)と生クリームを2:1:1でシェイクして作る「アレクサンダー」というのがある。材料からも察しがつくように、これはキツいくせに激甘で、“甘いもの好きな酒飲み”という、日本語では表現しにくいタイプの人にアピールできるわけだ。

 次に、アルコール度数の調整として。同じジンをベースに作るカクテルに「ギムレット」がある。こっちはライムジュースと2:1くらいでシェイクして作るから、ジンそのものに比べるとマイルド。ジュースと言ってもライムなので、甘ったるくはならない。ジンフィズとかジントニックとかも、こういう流れだと思う。最近日本でハイボールが流行っているのも、それだ。ビールのカロリーが気になる人が、ビールのようにがぶがぶ飲める酒として指向してるんだろうし。

 そしてもう一つあるのが、プラス方向の調整だ。

 色鮮やかなリキュールは、シロップみたいに濃いから実質的に何かで薄めないと飲み物にならない。ただ、アルコール度数は20%程度。これを水とかで割ってしまったのでは、酒として薄くなりすぎる。そこで蒸留酒で“薄める”わけだ。

 このときに好まれるのが、ウォッカ。ジンだとスパイシーな風味があるけど、ウォッカは無色透明かつ無味無臭だ。そして、ウォッカのキツさがあれば、ジュースと混ぜても相応の度数を保ってくれる。オレンジジュースを合わせると「スクリュードライバー」に、グレープフルーツジュースだと「ソルティドッグ」になる。どちらも、最初の一口目は単なるジュースとしか感じられないほどだ。

 そうやってできた「ジュースのように綺麗で、スイーツのように口当たりがいいけど、実はキツい酒」というのをなんに使うのかはまた別の話。昔はよく「女の子に飲ませて潰す」なんて言われてた。でも今は女子だってアルコール慣れしてるから、そう簡単には行かないだろうね。