ゲームは究極の科学なり

フルタイムの教員モードに入っている企画系ゲーム屋があれこれ綴ります

ハードにライトな物語(4)

 一回目にも書いたように、今取り組んでいるのはミステリーじゃなくて、ライトノベルだ。過去10年分の『このラノ』ランカー(15位以上)と、ラノベ関連の文学賞の入選作とをリスト化、機会をみては買い足している。今のところ、手元に抑えたのは30冊くらいで、まだ道は長い。でも読み終わったのは半分程度なので、入手を焦る必要はないのだけど。

 さて、ここまで来て思い知ったのは、この分野に対しての自分の無知さだった。ろくすっぽ知らないまま、ラノベというのを―どちらかと言うと見下す方向で―決めつけていたことに気がついたのだ。

 とりあえず2冊だけ挙げてみる。

  山形石雄六花の勇者

  松坂洋『All You Need Is Kill

 文章の質の高さ。プロットの緻密さ。そしてコアになるアイデアのユニークさ。どれをとっても一流の小説だと思う。

 『六花の勇者』は、ワールド設定やキャラ造形に抵抗がある人もいるかもしれない。何しろ、剣と魔法の世界だし、7人の登場人物が入り混じる話を文章だけで書くとなると、どうしてもセリフ回しが類型化してしまう。とはいえ、そういうキャラ造形でも上手下手はあって、この人の場合はだんぜん巧いと思うのだ。

 『All You……』については、たとえSFやミリタリーに興味がなくても、「死ぬ人間を一人称で描き続ける小説」というところが気になったら、手にとって欲しい。映画版の批評で「原作小説で鼻についたマッチョイズムも本作では薄れ……」なんてあったから、気になる人はその辺のテイストが気になるのかもしれない。ぼくは、『宇宙の戦士』(ハインライン)の書き出しを思い出した。そして、ジョニーの場合よりも絶望的なその状況に、どっぷりと入り込めた。ともあれ、ハリウッド版映画に見られるように、本編をリスペクトしない連中によるメディアミックス展開が進んでいるから、まずはオリジナル版を読んでおいたほうがいいと思う。

 高水準な作品の存在は、読者的には希望だ。作者になりたい人にとっても、一応希望といえるだろう。自分の作品との違いに愕然としたその瞬間は、絶望かもしれないけどね。