ゲームは究極の科学なり

フルタイムの教員モードに入っている企画系ゲーム屋があれこれ綴ります

ソトメシ十番勝負(3)

 ナンという食べ物は、それ自体悪くない。

 まず、形状がなんともいえず楽しい。たいていの平面形は幾何学図形のどれかで言い表せるものだけど、ナンのは単純じゃない。丸と楕円と三角を合わせたような、とでもいうんだろうか。たとえを使うのなら、いちばん近いのが“ゾウリムシ”だ。そして立体的には、そのボコボコ感。適当に膨らんでいて、波打っている。加えて、でかい。どんな皿にも載り切らないほどに。

 また、食べ方が愉快だ。でかいのをむずとつかみ、ふんと引きちぎっては、口に送り込む…そんな食べ方が許される食品なんて、なかなかないよね。このちぎれ方が部位によって違っているのがまた楽しい。

 そして口に入れると、これがまた美味いのだ。「焼いた小麦粉」という食品がもたらす食感の全て−「しっとり」と「ねっとり」と「パリパリ」−が、そこにはある。油がてかてかしていたり、焦げて香ばしかったり、口の中に入れるとほわっと甘みが拡がったり。

 そんなわけで、食べることの悦びが幾重にも込められているのが、ナンだ。ただ、以上のは、プレーンナンの話。チーズナンは、そのゾウリムシ型の中にチーズが入っているのかというとそうでもなくて、円盤型をしている。また、プレーン・ナンの特徴とも言えるボコボコ感はなく、フラットに仕上がっている。プレーンナンが持つ楽しさのいくつかを犠牲にする代わりに、「溶けたチーズ」を、この上ないほどに口にすることができるわけだ。

 もちろん料理である以上、美味いのとそれほどでもないのとに、別れるのだろう。でも、これまでの経験上、外れたことはない。ただ好みという点だと、ひとつあるかも。チーズナンには、はちみつを掛けている店とそうでない店とがあるのだ。

 チーズ欲を満たすためにはむしろ邪魔な感じ。ただ「どちらかと言えば」で、受け入れられないわけじゃない。本来の姿はそうなのかもしれないし、インド料理というシステムの中ではうまくハマるのかもしれないし。「乳と蜜」なんて、なんとも楽園っぽくて、インドに合いそうじゃないか(でも実際には旧約聖書に出てくる言葉だけどね)。