ゲームは究極の科学なり

フルタイムの教員モードに入っている企画系ゲーム屋があれこれ綴ります

ぼくが弁理士をめざす理由(4)

 想定外の連中が想定外の権利を行使する……実際に、どんなことが起きているのか。これは、ゲームに則した話がわかりやすいだろう。

 任天堂は『ティアリングサーガ』のゲームデザイナーを「著作権侵害」で訴えた。自社のゲーム『ファイヤーエムブレム』の盗作だと主張したのだ。だけど、その訴えられた人というのは、任天堂在職時に実際に『ファイヤーエムブレム』を作った人。つまりこの人は「自分が作ったゲーム」を“真似した”として、何千万円もの損害賠償を請求されたことになる。

 また、コナミテクモは、チートツールを作った会社に対して「著作者人格権の侵害」を主張、損害賠償を請求した。これらも言うまでもなく法人で、個人ではない。仮にその作品……具体的には『ときメモ』や『DEAD OR ALIVE』だが……に自分が込めた思想信条を主張できる人がいたとしたら、実際に作ったクリエイターであるはずだ。なのに彼らは完全に蚊帳の外。「給料を払っていた」という理由から、営利を目的とした企業が、堂々と「非金銭的な権利」を主張する(もちろん損害賠償請求という形で)。

 でも、こんなあきれるような裁判は、どちらも会社側の勝ちだ。

 法人に著作権の原始取得を認める以上、職務で著作をしたクリエイターは、最初から100%無権利者になってしまう。そして法人が最初から著作者だから、著作者人格権も著作と同時に獲得したことになり、本来非金銭的な権利であるはずの主張ができてしまうことになる。

 この他、パブリッシャーが、契約交渉の段階で決裂したデベロッパーが他のパブリッシャーと組んで完成させたゲームソフトに対して「原作者」としての権利を主張したなんて裁判もある。契約交渉と平行して進めていた初期構想の時点で、デベロッパー側のディレクターを形式上社員扱いにしてその間給料を払っていたことから、職務著作を主張したのだ。これは判決で否定されたけど、もしデベロッパーに裁判を戦いぬくだけの資金力がなかったらそのまま不戦敗となり、作品の権利は開発費すら払わなかった旧パブリッシャーのものになってしまっていたわけだ。