ゲームは究極の科学なり

フルタイムの教員モードに入っている企画系ゲーム屋があれこれ綴ります

『その女、アレックス』を読んで(2)

 ……なんて、なんで延々とタイトルの話ばかりしてるのか。

 困ったことに、そんなことでもするしかない小説なのだ。なぜなら、少しでも筋書きを書けば、ネタバレになってしまうから。

 アレックスと刑事との視点を交互に切り替えながら、物語は描かれていく。通常、小説の読者は、視点上の主人公に自分の立場を仮託して読んでいくわけで、それが一貫していると「読みやすい」小説になる。だけど、この小説は、決して読者を安心させない。章が変わるたびに視点も変わり、世界の新たな側面が示される。読者が確立した立場は、その都度崩されてしまうのだ。

 この刑事、芸術家の母を持つ、低身長症の中年男(しかもファーストネームは女性名)と、キャラがかなり立たされている。そして同僚たちも曲者ぞろいだ。その辺から、おそらく彼はシリーズものの通し主人公であり、きっとこれ以前の作品でも活躍しているのだろうと推測できる(実際にはシリーズ第2作らしい)。となるとアレックスは主人公といえども……と、このあたりまではだいたい予想できた。でもその先は「思いもよらない」の連続だ。思わず前のページを見返してしまうこともあった。

 ぼくはサスペンスが苦手だ。だいたい人を傷つけたり殺したりというのが嫌なのだ(ゲーム屋が何を言うかなんて突っ込まれそうだけどね)。通常のミステリーだと、すでに終わった事件を前に探偵たちがあれこれ論じてたりするからまだいいかな。サスペンスのは、現在進行形だ。でも、そんなぼくでも、引き込まれることができた。

 読後感はっていうと、まあなんだね、かなり悪いね。作品はいいんだけど、読後感は悪い。これも詳しく書くことはできない。サスペンスも、広い意味ではミステリーに属する。そしてミステリー全般の特徴は、それが論理的だということだ。登場するナラティブには、意味のないものはほとんどなく、「数理文学」と呼びたくなるような構造を持っている。だから、一部といえども、抜き出して論じることが難しいのだ。ここまで書いたことの中にも、厳密に言えばルール破りになりかねないことが含まれているかもしれないし。

 ちょうど読み終わった頃、今年の「本屋大賞」が発表された。ずばり、海外小説部門第1位だそうだ。しかもそれ以前に「このミス」とかもとっていて、これで6冠なんだとか。賞の権威というのは好きになれないけど、こういう「中身を話せないけど面白い」な本を勧める上ではいいのかもしれない。