一日にしてならぬもの(2)
今回、コンプリート(まだしてないけど)への原動力になったのは、美観だ。
最近、本棚の美しさということを、考えるようになった。
元々ぼくの書棚には、文庫や新書が多かった。この頃は、美しさなんてそんなに考える必要もない。同じ版元なら、装丁も共通。並べていけば、自動的に外観が揃う。一時期の講談社現代新書には閉口したけど、最近は妥当な線に落ち着いてるし。
でも、ハードカバーが中心になるとそうも行かない。単行本は、一冊ごとに自己を主張するからだ。背表紙だけで自分を売り込まなくちゃいけないから、やたらと目立つようなデザインになっていく。
それでも、読書人としてのぼくのジャンル的な偏りから、前まではだいじょうぶだった。例えば工作舎や青土社あたりのスノッブな本だと、むしろ好ましいぐらい。デザイン上の美しさで目を引こうとしているからだ。だけど、ビジネス書が入り込んでくると変わってきた。これらの場合、目を引くための手段は、ためらいもなく色やフォントのどぎつさ。やたらと原色&極太ゴシックばかりになり、本棚の風景はどんどん汚くなっていったのだ。
そしてとどめを刺したのが、文芸作品。そうトレンドに敏感な読書人ではなかったから、小説なんて文庫化されたものだけで満足していたのだけど、あるとき新しい作品も知らなければと思いはじめた。そしてハードカバーで「芥川賞コンプリート」をめざしたのが、いけなかった。美しかった本棚の光景は、目も当てられないほどのカオスになってしまった。
もういちど秩序を取り戻したい…そう思った時に目に止まったのが、4冊ぐらい並んでた『ローマ人の物語』だったのだ。