ゲームは究極の科学なり

フルタイムの教員モードに入っている企画系ゲーム屋があれこれ綴ります

イン・ザ・東横


 男一人旅、なんていえばロマンがあるし、若干の侘びしさ成分も含まれているのだけど、ぼくは出張の類でしか、ほとんどしていない。今日もその例にもれず、出張目的で東京にいる。
 今回ちょっと新鮮だったのは、お宿だ。あの『東横イン』。有名なチェーン店だけど、どちらかといえば悪名成分を含む有名さでもあって、これまで使ったことはなかった。
 行ってみると、かなり残念な立地。……うん、駅からは近いんだよ。残念さは不便さではなくて、周辺の雰囲気の問題だ。3軒隣にラブホだしね。建物もまた、かなり残念。外観がワンルームマンションにしか見えない。入り口も、狭い上に外側に自販機が並んでたりするし、カウンター前の小スペースは「ロビー」と読んでいいのかどうか悩むほど。つまり「ホテルってこういうもんでしょ?」の常識から、完全に自由な仕様なのだ。
 部屋に入ってみると、それがはっきりしてくる。白い蛍光灯で照らされた明るい室内は、ニトリあたりで買えそうな調度品によって整えられている。壁紙もペラい。エアコンも、自宅にあるのと同じような、家庭用の独立したやつだ。窓はふつうのアルミサッシで、開けるとベランダ―隣とつながってて、いざというときには壁ぶち抜けば移動できるやつ―で、周囲の雑居ビルの雑然とした屋上がよく見える。
 でも、使ってみると、この部屋、なかなか居心地がいいのだ。全然不快感はないんだね。ホテルというものが「かくあるべし」と思っていた空間デザインは、かなり自己満足的だったのかもしれない。考えてみりゃ、部屋が薄暗い方がいいなんてのはおかしな思い込みなのだ。ワンルームマンションと同等、全然上等!。ミニマムを追求し尽くした仕様というのも、それはそれで気持ちいいし。
 コンセントもミニマムで、空いてるのを探すのに苦労したけど。



 東京でのぼくにとっての常宿は、かつては六本木『バグース』だった。六本木交差点から南に少し、ハードロックカフェを横目でちらっと見た先にある、ネットカフェだ。夕飯をとってからここに入り、12時間パック。そして朝、夜通し遊び続けた不良外人たち(偏見)がたむろする中、地下鉄駅をめざしてとぼとぼ歩くなんてのが、コースだった。
 ここを使ってたのはもちろん安いからだ。何しろ、3千円ぐらいで済む。でも、値段だけじゃない。快適だったのだ。店は落ち着いた雰囲気で、不潔感もない。一人あたりのスペースは広く、余裕で足伸ばして横になれる。そして、マンガとネットだけじゃなく、雑誌や新聞もずらりと並んでる。加えて、ドリンクの種類も豊富。チェーン店なので都内なら他にもあるけど、他に行っても同じように快適とは限らない。なまじっかのビジネスホテルよりはよっぽどいいと思い、ずっと使っていた。
 最近は、東京に限らずガーデンパレスを使うことが多い。私学共済が経営している施設で、部屋もサービスも「ほぼホテル」といったところ。でも、立地はなぜか変なところにあるね。名古屋だと歓楽街のど真ん中で、ヘルスやキャバクラなど、ピンク色した看板の林の向こうにある。東京のは医科歯科大病院のすぐ裏で、全室から視界いっぱいに大学病院が展望できるという仕様だ。そして朝食も「ほぼホテル」。いわゆるバイキング形式で見た目は素晴らしいのだけど、味がホテル並みじゃない。
 東横インは、朝食という点でもホテルの流儀と一線を画していた。ネットで見ると「朝食無料!」なんて書いてある。でもこれはバイキングじゃない。ロビー(と呼べるのならばそうなる空間)の隅に、朝になるとパンとコーヒーが置かれて、それを自由に食べていいということなのだ。店内のポップには、わざわざ「小さなパンが」なんて書いてあったりする。また、7時から9時半までだけど、早い者勝ちで、ほどんど期待できないよね。でも、そんなに捨てたものでもないのだ。ちゃんとした調理パンが用意されていて、十分朝食になった。



 そんな楽しい出張も終わり、現在、帰りの新幹線の中にいる。わけあって「こだま」だ。
 学生時代、むしろこちらがメインだった。新幹線部分は、小田原から豊橋まで。実家は三河だし、東京では主に京王沿線に住んでたから、この方が手軽だった。それに、当時のダイヤでは、そんなに時間がかかるわけでもなかったのだ。通過待ちが入るのは、せいぜい2駅程度だった。
 小田原じゃいつも「鯛めし」を買ったもんだ。ただそれを除いても、あの頃は、旅情があったね。「こだま」にはビュッフェがあった。椅子に座ってるのに飽きてきたら、カウンターに肘を乗っけて、風景を視ながらコーヒーの湯気にあごをくゆらす、なんてことができた。「ひかり」だと食堂車まで付いてた。例えば朝のひかりに乗ったりする。さすがに自由席なんか空いてないんだけど、時間を少しおけば、食堂車に空きが出る。時間を見計らってそこに行き、モーニング頼んでゆったり時間を過ごすなんてこともできた。n年ぶりという点ではセンチメンタル・ジャーニーな資格もあるはずなんだけど、肝心の旅情が完膚なきまでに消えてしまったのでは、そういうわけにもいかなくって、ただの我慢大会だ。
 旅情崩壊のきっかけは「のぞみ」の登場だった。博多までも行くくせに、ビュッフェすらなかった。そして、これを優先的に通すために「こだま」の通過待ちはどんどん増え、今では逆に2駅ぐらいしか通過待ちをしない駅がないほどになっている。その後の車両展開も、実用一点ばり。500系というスター車両を「座席が数列少なくなる」なんて理由で追放し、同じ形の車両ばかり走らせてる。
 考えてみると、そのあり方は東横インと通じるのかもしれない。「特急ってこういうもんでしょ?」をばさばさと切り落とし、必要最小限を満たす仕様にする。でも、新幹線は安くなったわけじゃないな。
 「こだま」の名古屋までの所要時間は、2時間46分。これはたぶん書く時間としては、たっぷりだ。雑文を書き終わったら、出張報告でもまとめることにしよう。