特殊能力でもオカルトでもなく(3)
思い出してみると、大学で最初に入ったゼミの先生が、こんなことを言っていた。
「まず序文を読んで、それから見出しをじっくりと見ること。
それが正しい専門書の読み方だよ」
佐藤式超速読術は、考えてみるとこの「見出しだけを読む」と同類のやり方だった。教授式では、対象になる本が専門書に限られるから、見出しだけでも全体像がわかる。それを書籍一般に拡張するためには、極浅理解度での把握を、もう少し広範にしてやる必要があるわけだ。ぱぱっとページを切り替えていくことで、「自分専用詳細見出し」を頭の中に作るのだとも言える。
ただ、この佐藤式速読術で森羅万象ことごとくを自分のものにできるのかというと、そうもいかないのだ。というのも、いろいろと条件があるから。
1.十分な基礎知識のある分野でないと無理
言葉の意味すらよくわからないような分野だと、できるわけがない。
2.本の方に難がある場合は無理
非論理的な本はだめだし、逆に論理が込み入っている本もつらい。
また、その分野での基本的な言葉の使い方を
手前勝手に無視したような本も同様だろう。
3.書き込みができない本だと無理
佐藤式では、マルで囲んだりコメントを書き込んだりが必須。
これがないと、二度目の速読/熟読もできないからだ。
新しいことを知りたいから本を読むわけで、あらかじめ知っておかないと使えないっていう1の条件は「お金が欲しかったら、まず貯金しなさい」と言われているみたいに、ありがたみがない。また、2の帰結として、文芸書や人文系の本のかなりの部分がこぼれ落ちてしまう(西田幾多郎とか、もうどうにもならないよね)。そして3が意味するのは、「本は買わないとだめ」ということだ。書店での立ち読みや図書館で借りた本に対しては、速読が使えないのだ。
速読は、特殊技能でもなければオカルトでもない。なので、魔術めいた効能もやっぱりないわけだ。