ゲームは究極の科学なり

フルタイムの教員モードに入っている企画系ゲーム屋があれこれ綴ります

奴隷じゃなくて「貴族」でしょ?(3)

 既に著作権の後期授業が始まっていて、その中でこの件についても触れている。

 意識の高い学生は、ちゃんと中村氏のことを知っていた。ただ、「会社からやめろと言われても続けた研究の成果なのだから」という、中村氏によって繰り返し語られていた軸の説明を受け入れている。

 やっぱり、他人ごとになってしまう。ここはゲームに置き換えて考えるといいだろう。


 プログラマがいた。才能はあるが、自分の好きなことしかしようとしない。プロデューサーやチーフプログラマ指示しても守ろうとせず、「いや、オレ、そんなことやりたくてプログラマやってるわけじゃないッスから」なんてうそぶきながら、いつ完成できるのか見込みもつかないゲームエンジンを作り続けてる。それでも社長が才能を見込んでかばっていたので開発部にいつづけていたところ、さらにある日「オレ、海外のゲームとか勉強したいんで」とGDCに参加させろと言い出した。これも社長の鶴のひとこえで、交通費・滞在費・参加費全て会社持ちで派遣してもらう。

 帰国後も、上司やまとめ役の言うことを聞かず、やりたいことを続ける。そしたらある日とんでもなく凄いゲームエンジンを作り上げた。そこで、会社のスタッフが集まり、ゲームデザインをし、シナリオやグラフィックなども与え、ゲームソフトとして完成させ、さらに広告や営業を展開し、ヒットに向けての戦略も練って発売。そのタイトルは大ヒットになった。その結果有名になった彼は会社を辞めGDCで知り合った海外のクリエイターを通じて、アメリカのメジャー企業に移籍した。

 このような状況で、彼がこんなことを言って裁判を起こしたら、どうだろうか。

  ○このオレが中心部分を作ったんだから、

   タイトル全体の著作権もオレのものだ。

   デザイナーやアーティストなんて、

   後から付け足しただけだから、権利なんてゼロで当然さ。

  ○具体的にふさわしい報酬額は、

   会社がそのタイトルで得た利益額の半分だね。

   固定費とか広告費とか会社はコストかけてるけど、

   それは残りの半分に含まれるんで、オレの取り分には関係ないね。

   またプロデューサーの仕事なんかも、考慮する必要なんてない。

   しょせんは誰にでもできることなんだし。

  ○給料はもらってたし、

   海外研修にも行かせてもらったけど、それはそれ

   だいたい技術的には会社の誰の助けも受けてないんだから、

   成果は独占するのが当然だよ。


 最近は知らないけど、昔は、おもしろいゲームさえできれば、自動的にヒット作になるように考えているプログラマというのが、けっこういた。彼らの多くは、開発部以外の部署を「誰にでもできる仕事をしてる連中」と見下していた。そして、売上本数とソフトの単価を掛け算し「その半分ぐらいはオレのおかげ」みたいなことを平気で言っていた。

 それでも、ゲームソフトが主に関係する著作権法では、青色LED事件のような訴訟は起きていない。なぜなら、職務著作の著作権は会社が原始取得する(=社員に一切の権利はない)と、決められているからだ。